笑顔の裏側に
玄関を出る時、私はフードを被り、髪で出来るだけ顔を隠す。

「ごめんな。堂々と外も歩けなくて。」

申し訳ないそうな顔で私を見るから、大げさなほど首を横に振った。

「これは私が勝手にやってることですから。万が一の時のための自己防衛ですよ。」

それでも先生は浮かない顔をしていて。

「だったらほら、先生も。フード被ってください。これでお揃いでしょ?」

背伸びをして無理やりフードを被せて笑えば、先生も笑って私の頭を撫でてくれた。

そして車に乗ってどこかへ向かう。

行き先を尋ねれば、遠いところという曖昧な答えが返ってきてよく分からなかった。

だんだんと窓の外の景色が私の知らないものへと変わっていく。

そして気づいたら小さなお店の前で停車していた。

「ここまでくれば多分大丈夫だと思う。」

そう言ってドアを開けてくれた。

先生だって十分気を遣ってくれている。

だからこそお互いのために絶対に誰にもバレてはいけない。

なんとしてでも隠し通さないといけない。

そう胸に刻んだ。

そうして入ったお店はお洒落で落ち着いた雰囲気だった。

お昼の時間のピークを過ぎたせいか、席はいくつか空いていて。

迷わず一番奥の目立たない位置に進む。

念には念をだ。

どんなに注意していても、し過ぎることはない。

先生の視線が横から刺さった気がしたけど、私は先生の手を取って、微笑んだ。

「あの席、窓から日差しが入って暖かそうですよ。行きましょう。」

まるで本当にその席を希望しているように。

決して深い意味などなく、何も考えていないように見えるように。

「ああ。」

静かに頷いて、日当たりの良い方に座るように促してくる。

お言葉に甘えて、その席に腰を下ろした。
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