笑顔の裏側に
両親が帰ってくるのは来週の水曜日。

だから今日帰る必要はない。

もちろん本当は今日帰るつもりだった。

先生に迷惑はかけられないし。

私だって勉強しないといけない。

でも先生もそれを望むなら。

何しろ今日は1人にさせておきたくない。

誰だって1人になりたくなくて、誰かにそばにいてほしい時があるから。

その時には私を頼って欲しいと思う。

先生にとって安心して頼れる存在になりたいとも思う。

だから今は、先生の不安な声にしっかりと寄り添って。

先生が自分の発した言葉に責任や罪悪感、後悔などマイナスな感情を持たないように。

私は自ら望んだことであるかのように、言葉を選び、行動する。

「いいのか?」

先生は微動だもせずに立ち尽くしていた。

「先生がよろしければ。」

その言葉に先生が勢いよく振り返り、私の回した腕はいとも簡単に剥がされる。

そのままギュッと抱きしめられた。

私も持て余した両手を先生の背中に添える。

これで少しでも先生の心が落ち着くといい。

今だけは不安から解放されてほしいと願わずにはいられなかった。

そしてその日は夜眠る時までずっと先生と離れることはしなかった。
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