笑顔の裏側に
そのまま進路指導室に入った。

いつものように鍵はかけなかった。

先生も場所を弁えているようだ。

ここはどの先生も使える場所。

万が一開けられた時に鍵がかかっていたら不自然に思うに違いない。

その心配は大丈夫そうだ。

「それで進路の話っていうのは‥」

いきなりそう切り出した先生に戸惑った。

だって最初から進路の話なんてないのだ。

ここにくるためだけに作った理由なのだから。

「それは後ででもいいですか?先にwritingの指導をお願いします。」

そう言って向かいの席から先生の隣に移動する。

「え?あ、いいけど‥。」

戸惑いながらも、隣に座りやすいように少しズレてくれた。

「ありがとうございます。」

そう言ってノートを開き、先生に渡した。

そのままいつも通り指導を受ける。

だけど時折顔をしかめてこめかみの辺りを押さえているのを私は見逃さなかった。

指導が終わるとすぐに先ほどと同じような質問が飛んできた。

「進路のことで何か悩んでいることがあるのか?」

添削してもらっている間に、先生のことを見つめながら、何を話すか考えていた。

でも結局何も思いつかなかったので、話をすり替えることに決めた。
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