笑顔の裏側に
ぼんやりと立っていれば、エントランスのガラスがノックされ、慌ててドアに近づいた。

「ごめんね、遅くなって。」

小さく首を振った。

エレベーターの中で、先生の状態を私が知る限り説明しておく。

先生に部屋の前に来たとき、私はそこで足を止めた。

そして愛お姉ちゃんと向き合う形をとる。

「優美ちゃん、歩と何かあった?」

口を開こうとした瞬間、出鼻を挫かれた。

「随分と泣いたみたいね。」

慌てて俯き、自分の瞼に触れた。

「まあ、ちょっといろいろあって‥。だから、これ。栄養のあるものをと思って買ったんです。これで先生におかゆか何かを作ってあげてください。」

目を合わせずに食品が入ったビニール袋を差し出した。

というより合わせられなかった。

だけどそれはすぐに断られた。

「ごめんね、それは受け取れない。優美ちゃんが歩に作ってあげて。」

そう言って私の後ろを回る。

私が振り返ると同時にロック解除の音がした。

そのまま腕を引かれて、無理やりリビングに連れて行かれる。

「私は歩を見てくるから。ここにいてね。あ、それで何か作って待ってて。」

有無を言わさず、さっさとリビングを出て行ってしまった。

てか暗証キー、知ってたんだ。

ならエントランスで待つ必要もなかったし、買ったものも玄関の外に置いてさっさと帰ればよかった。
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