笑顔の裏側に
ーーー先生へーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
小さな鍋の方から温めて食べてください。
水分が少なかったり、味が濃かったら、
少し水を入れて一煮立ちさせてください。
もし食べられなくても水分だけは取ってください。
テーブルの上にポカリとゼリーを置いておきます。
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鍋を開ければ、卵粥と野菜がたくさん入ったお粥が顔出した。

振り返ってテーブルを見れば、散らかしてあったものは綺麗に片付けられ、ポカリが2本、ゼリーが
いくつか並んでいた。

じんわりと視界が歪んだ。

服で目頭を抑える。

部屋を見渡せば、洗われた洗濯物が干されていた。

俺が今朝出したものまでしっかりと。

今朝、あんなにひどいことを言ったのに。

ここまでしてくれるなんて。

本当に俺は何をしているんだろう。

優美の何を見ていたのだろう。

さりげない優しさでこんなにも俺を包んでいてくれたのに。

優美だって俺の様子がおかしいことに気づいていたはず。

でも詳しいことは何一つ聞かなかった。

俺のわがままにもできるだけ答えようとしてくれて。

休日だって勉強したいはずなのに、俺のために少しの時間でも顔を出して、栄養のあるものを作ってくれて。

誤魔化す俺に騙されたふりをして、ずっとそばにいてくれたのに。

1つ思い出すと、走馬灯のように次々に蘇ってくる優美の気遣い。

俺はその優しさにただただ甘えるばかりで。

本当に何も分かってなかったのだと痛感する。
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