笑顔の裏側に
「まあ、それは置いといて。」

「置いといていいの?」

「よくないけど‥もう!話を逸らさないで!」

何でここでそんなに突っ込んでくるの?

本題がどんどんズレちゃうじゃない。

「いつもの優美に戻ったな。」

「え?」

「威勢がいいのもいいけど、でもやっぱりお前は笑った顔が一番可愛いよ。」

悠の優しげに細められた瞳を見て、さっきまで少しだけ顔を出していた怒りが一気に萎んでいく。

そんな風に言われたら、もう怒れないじゃない。

今のもわざと突っかかってくるように仕向けたんでしょ?

「ごめん。」

「何で謝るんだよ。意味分かんねえ。」

「だって‥」

そんなの私だって分からないよ。

でも可愛いなんて言われて、平常心でいられるほど、私は恋愛に慣れていなかった。

頰が熱い。

胸の鼓動が耳まで響く。

「それより、木下のことだけど。」

顔を見られないように俯きがちで返事をする。

「あの感じだと、お前の言葉を信じただろうな。てかお前、すげえな。よくあの状況で平然と噓吐けるな。俺はそれに感心したよ。」

「それ、褒めてんの?貶してんの?」

ていうか尾行した悠にそんなことを言われたくないし。

「うーん。どっちも?」

「あっそ。」

もう私のドキドキを返して欲しい。

今日はいつも以上に優しくて、見直したところだったのに。

「そう怒るなって。それで、重要なのはここからなんだけど‥」

怒らせたのは誰よと思いながらも、言い淀む悠に視線を向ける。

なかなか言い出さない悠に不安になる。
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