笑顔の裏側に
このまま帰ってしまおうか。

そう思ったが、流石にそれはまずい。

悠に先に塾に行くようにメールした。

それからすぐに先生が来た。

「待たせてごめん。そこに座って。」

「失礼します。」

そう言って先生の目の前に座る。

「体調の方は大丈夫か??」

「大丈夫です。昨日はありがとうございました。」

「マスクしてるのに?」

鋭い。これは下手に動くと危ないな。


「はい。少し喉が痛いだけですから。それで今日は何か?」

バレないようにさりげなく注意を違うところに向ける。

「ちょっとな。麻生、悪いがその青のファイルをとってくれるか?」

先生は話題が逸れたことに気づいていない。

これでひとまず安心だ。

と思ったのも束の間だった。

棚からファイルを取って先生に渡した。

「ありがとう。麻生、その手はどうした?」

そう言われて私は慌てて自分の手を見た。

今まで気をつけて袖で隠していた手の甲がファイルを渡す際に出てしまっていた。

当然化粧も落ちている。

「ぶつけただけです。」

そう答えるが、きっと納得はしないだろう。
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