笑顔の裏側に

背中合わせの恋心

歩side

優美が泣きながら英語科準備室を飛び出して行った。

優美の泣き顔が頭から離れないし、胸がズキズキと痛む。

全てに気づかないふりをして、これでよかったんだと何度も自分に言い聞かせた。

そうしないと決心が鈍ってしまいそうだった。

実際、優美に遮られて助かったと思った。

あのまま続きを口にしていたら、今までの言葉が意味をなさなくなる。

あんなに泣かれて、それが俺と別れたくないとでも言うようで。

俺の本心を言ってしまいそうになった。

¨俺の隣はお前じゃないとダメ¨

言おうとした言葉が頭に浮かんだ。

それを打ち消すように、優美の隣は俺じゃダメだと戒める。

昨日、保健室で偶然聞いてしまった会話。

柏木先生と入れ替わるように俺は保健室に入った。

俺はまた何も知らなかった。

何も知らずにただ守られていた。

優美は守ってもらうだけでは嫌だと言っていたけれど、本当に守ってもらっていたのは俺の方だった。

俺のせいで肋骨にヒビが入るほどの傷とそれよりも大きく深い心の傷を負って。

それでも必死に隠していたのは俺のためだろう。
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