笑顔の裏側に
何も言わない私に痺れを切らしたのか、先生が話を続けた。

「それで2次試験のWritingの対策だけど、いつから始める?私大の対策もあるだろ?」

その話になって今日初めて先生の顔をしっかりと見た。

私を見つめる真剣な瞳に目を逸らしそうになったけど堪えて、私ははっきりと告げた。

「そのことですが、塾にT大に特化した講座がありますので、そこで対策をすることにしました。お願いしていたのに申し訳ございません。」

立ち上がって頭を下げる。

先生は今、どんな表情をしているのだろう。

以前のように先生に個別で指導してもらうなんて無理だった。

そんなことしたら、今度こそいつか泣いてしまうに決まってる。

考え直して欲しいと縋ってしまいそうで怖かった。

そのためには塾で対策をするのが最善の策だった。

「そうか‥。その方がいいかもな。」

その言葉を聞いた瞬間、胸にズキッとした鋭い痛みが走った。

やっぱり先生も迷惑だったんだと悟った。

あんな別れ方をした元彼女と2人きりなんて先生だって嫌だろう。

自分だってそう思っているくせに、いざ自分がそう思われるのは悲しかった。

そんな自分勝手な気持ちにまたしても反吐が出そうだった。

「じゃあ、体調に気をつけて頑張れよ。何かあったら、学校に来いよ。俺はいつでも学校にいるから。」

そんな、いつでも私を待っているみたいな言い方、本当にやめてほしい。

教師としての生徒への言葉だっていうのはわかってる。

でもそんなに優しい言葉をかけられたら、期待してしまうから。

先生が私を突き放したのに、私の心を掴むのもまた先生で。

そのことがたまらなく辛くて。

じんわりと浮かんだ涙がこぼれ落ちそうになった。

「ありがとうございました。失礼致します。」

先生の顔はとても見れず、私は床を見つめたまま、進路指導室を後にした。
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