笑顔の裏側に
少し時間を稼ごう。

頭をフル回転させていい言い訳を考える。

「ぶつけたってそんなにたくさん?」

「そうです。私、意外にドジなんですよ。だから結構いろいろなところにぶつけることも多くて…。」

笑ってその場をやり過ごす。

先生の反応はイマイチだ。

「麻生、本当のことを言え。」

先生の低い声でごまかせていないことを確信する。

まっすぐに見つめられた今、これ以上の下手なごまかしは通用しない。

「実は…。昨日、家に帰った後、リビングに行こうと自分の部屋を出て階段を降りました。そのときに急にめまいがして階段でしゃがみ込んでしまいました。それで少し休んで階段を降りようと立ち上がった時にはまだ治ってなかったみたいで、クラッとしてそのまま階段から落ちたんです。その時にできたんです。」

これなら大丈夫だろう。

昨日倒れたし、そのまま塾に行ったことも知っている。

疲れが出てめまいが出るのも不自然なことではない。

「そっか…。気をつけろよ。なあ、今だけマスク取ってくれないか?話ずらいだろ?それに俺も少し聞き取りにくい。」

納得はしてくれたみたいだが、今度はどうやってごまかそうか?

マスクをはずせば、腫れている頬が露わになる。

そして痣にもなっている。

しかも片方だけだ。

階段で落ちたというだけでここまで腫れるものだろうか。

でも今更どうやってごまかす?

もう後には引けない。

無理やりにでも嘘を突き通すしかない。

私は覚悟してマスクを外した。
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