笑顔の裏側に
そして頬に貼った湿布が先生の目に留まる。

「お前…。それ…。」

驚くのも当然だ。

いくら湿布を貼っていたとしても、腫れている部分が全て隠れるわけではない。

それに湿布の上からでも腫れているのは一目瞭然だ。

先生は席を立って私に近づいてきた。

「ちょっと見せろ。」

そうして私の頬に手を伸ばす。

その手を制して私は立ち上がった。

「大丈夫ですから。」

「なあ、本当に階段から落ちただけか?」

「そうですよ。」

まずい。完全に疑ってる。

「階段で落ちたぐらいじゃ、そこまでにはならないだろ?それにずいぶん部分的じゃないか?」

もはや最終手段だ。

「先生、ひどいです。私のこと、疑ってるんですか?」

少し悲しそうに話す。

「いいや…。そんなつもりじゃ…。」

「本当に階段から落ちただけですから。それじゃあ私はこれから塾ですので、もう失礼しますね。」

そう言って最後に笑顔を向けた。

これでうまく行った。

もうこれ以上は突っ込んでは来ないだろう。

生徒を疑っている。

そしてそれが生徒にバレて傷つけた。

この事実だけで先生は十分焦っているだろう。

別に私は疑われようと構わないが、生徒によっては先生を避けることもあるだろう。

そうして避けられれば、先生だって下手には声を掛けられない。

これでうまくかわせば、もう大丈夫だ。

そう思って私は安心して塾に向かった。
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