笑顔の裏側に
「まだいたのね。ちょうどよかった。」

そして束になった書類を渡される。

チラッと目を向ければどこかの地図が載っていて、赤い印がつけられている。

「ここがこれからあなたが住むマンションだから。鍵はオートロックで、番号はそこに書いてある通り。必要最低限の家具は揃えてある。それから通帳はこれを使って。ここに毎月の生活費を入れておくから。授業料と家賃、光熱費その他諸々はこっちで払うから。あとそれから‥。」

肝心の私は置いてきぼりのまま、次々と話が進んでいく。

そしてどこに置いてあったのか、引っ越し屋のダンボールが出てきた。

「これに必要な荷物を詰めて送りなさい。ここに電話すれば来てくれるから。」

そして話は済んだのか、そのまま玄関に向かってしまう。

「なるべく早くしなさいよ。」

全ての終わりを告げるかのように玄関のドアが閉まる音が家全体に響いた気がした。

崩れ落ちるように床に座り込む。

涙は出なかった。

人は抱えきれない悲しみや辛さを感じた時、泣けなくなると聞いたことがあったけど、その通りだった。

悲しいとか辛いとかいう感情が一切消えた。

心が何も感じなくなってしまったような感覚だった。

1人暮らしすることは前から分かっていた。

だけどまさかこんなにも私の知らないところで準備が進められていて。

それがいかにも早くこの家から出て行けと言われているようで。

私はこの家に本当にいらない存在なのだと嫌になるほど痛感させられる。
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