笑顔の裏側に
ものすごい勢いで何かが壊れるような音がした。

「優美!いるなら返事しろ!」

その声にドキッとした。

こんな姿、悠に見せるわけにはいかない。

だからそっと息を殺してドアの影に身を隠す。

だけど足音は確かに私に近づいて来ていて。

「優美‥。」

あっさりと見つかってしまった。

私の手を見て、サッと瞳の色が変わったのが分かった。

洗面台のカミソリもきっと見えただろう。

怒られる。

瞬時にそう思って、ギュッと目を瞑った。

だけど優しい何かに包まれ、その直後、頰に何かが落ちてきた。

驚いて目を開ければ、声を押し殺して涙を流す悠に抱き締められていた。

「悠‥。」

「よかった、無事で‥。本当によかった‥。」

その言葉を聞いた途端、大きな後悔が押し寄せて、自分のしたことの重大さを実感した。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」

ただ謝罪を繰り返す私を宥めるように、温かい大きな手で優しく頭を撫でてくれた。

そしてお互いに落ち着くと、抱き上げられてリビングに連れて行かれた。

棚から救急箱を出し、ソファーに向かい合うように座らされる。

「沁みると思うけど、我慢しろよ。」

ズキズキとした痛みが走って、思わず手を引っ込めそうになったけど、ガッチリと固定されていたため、それは許されなかった。

少し大きめの絆創膏を貼ってくれ、使ったガーゼなどを片付けてくれている。

私はそれをぼんやりと眺めていた。

「何があった?」

そう尋ねられても答えられなかった。

言葉にするのも辛かったから。
< 351 / 518 >

この作品をシェア

pagetop