笑顔の裏側に
そう願ったとき、あんなに全身を打ち付けていた雨が止んだ。

雨の音が遠くなった。

反射的に顔を上げれば、肩で息する悠と目が合って。

勢いよく抱きしめられた。

傘はすぐそばに落ち、再び雨の中に戻った。

「無事で良かった‥。」

その言葉を聞いて、本来の目的を思い出す。

ピーマンを買いに出かけただけなのに、全然帰ってこなかったら心配するのは当たり前だろう。

「ごめんなさい。」

「こんなに冷えて‥。何があった?怪我はないか?」

視線が私の足を捉えた。

「膝、擦りむいてる。転んだのか‥。」

悠は思い立ったようにいきなり立ち上がって、傘を拾う。

そして傘の柄を私に握らせた。

「ちゃんと持っとけよ。」

言われた通り、ギュッと握った。

すると、体がふわっと宙に浮いた。

お姫様抱っこをされていることに気づいたのは悠が走り出した時だった。

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