笑顔の裏側に
戸惑いを隠せず、降ろすように言っても、完全にスルーされる。

そしてバランスを崩して落ちそうになって慌てて悠にしがみつく。

それからは諦めて、悠が濡れないように傘を傾けることしか私にはできなかった。

マンションに着いても、降ろしては貰えなかった。

誰にも会わなかったことが不幸中の幸いだ。

玄関に入ったところで、やっと降ろしてもらえた。

「すぐ風呂に入れ。風邪引くから。」

お言葉に甘えて、ゆっくりとお風呂場に向かう。

お湯をかければ、手足の傷口がひどく染みた。

シャワーをさっさと済ませ、バスタオルで拭いていると、重大なことに気づいた。

そう言えば、服を持ってきてない。

仕方なくバスタオルを巻き、リビングに戻る。

「ごめん、おまたせ。悠も入ってきて。」

「おう、ちゃんと温まって‥」

私の姿を見て固まってしまった。

「そのまま入っちゃったから服がなくてね、ごめん。」

そう言って足早に自室に向かう。

ドキドキとはやる胸を押さえながら、ドアに寄りかかる。

いくら仕方がないとはいえ、あんなにまじまじと見つめられたら、恥ずかしすぎる。

くしゃみで我に返り、慌てて服を着た。

そしてベットに座り込む。

ぼんやりとカーペットの模様を見つめた。

頭の中を巡るのは雨の中の出来事。

私は一体、何がしたいだろう。
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