笑顔の裏側に
「今日はありがとう。」

「え‥」

そんな小さく漏れた声を気にせず続けた。

「忙しいのに私のために時間取ってくれて。お母さんとちゃんと話せてよかった。」

「優美、今まで本当にごめんなさい。」

何度も謝るお母さんを何とかしたくて、言葉を紡ぐ。

お母さんにも前を向いてほしい。

止まってしまった時間を動かしてほしい。

そんな想いを込めて、私の気持ちを正直に告げた。

「お母さんは許してもらわなくてもいいって言ってたけど‥私は別に怒ってるわけじゃないの。確かに辛かったし、傷ついたよ?でも許すとか許さないとか‥自分でもよく分からない。」

話を聞いているとき、お母さんを恨んだり憎んだりする気持ちは不思議と湧いてこなかった。

もちろん、許さないという気持ちも。

自分でもどうしたらいいのか分からない。

だけどまだ全部受け留められるほど、大人にはなりきれなくて。

まだまだ心の整理には時間が必要だと思う。

お母さんと普通の親子になっていくためにも。

だから許すとも言えないという複雑な心境だった。

「だけどそんなことよりも大事にしたいことができた。今日みたいにみんなでご飯食べたり、一緒に出かけたりしたい。私が作ったものをお母さんにもっと食べてほしいし、料理も教えてほしい。」

「料理なんて、私が教えられること‥何もないんじゃない?私よりもきっと‥あなたの方が‥上手でしょう?」

泣き笑いのような声色で応えてくれる。

笑ってほしくて、誇らしげに言う。

「他にもまだまだたくさんあるの。きっとこれからも増えていくと思う。」

「ありがとう、優美。」

その言葉を聞いて、少しずつ普通の親子になれたらいいなと心から思った。
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