笑顔の裏側に
「悠、もう帰って休もう。」

「これから‥バイト、行かないと‥。」

立ち上がって自分で鞄を持つ悠の腕を掴む。

「何言ってるの!こんなに具合悪いのにバイトなんてできるわけないでしょ!」

私の声が頭に響いたのか、顔をしかめた。

それにハッとして小さく謝った。

「これくらい平気。それに急に休んだら、迷惑がかかる。」

はっきりとそう言って、実験室を出て行く悠の後を追う。

体調が悪い悠に追いつくのはとても簡単だった。

すぐに追い越して、前方に回る。

「立ってるのもきついのに、仕事なんてできないじゃない。熱だってきっと上がってる。そんなんで来られたって向こうだって迷惑でしょ?」

少しきつい言い方だけど、どうしてもそんな体でバイトに行って欲しくない。

自分の体のことを一番に考えて、今はゆっくり休んでほしいから。

「うるせーな!俺が大丈夫だって言ったんだろ!」

声を荒げた悠にドキッと肩が跳ねたけど、ここで引くわけにはいかない。

「悠、お願いだから自分の体を大切にして。」

真っ直ぐ悠の瞳を見つめて伝えるけど、目を逸らされてしまった。

そのまま私を避けるようにして歩き出す。

そんな様子にショックを受けつつ、慌てて振り返った。

「悠!」

そう叫べば、少し先を歩く足が止まった。

「悪い。」

ただその一言だけを残して、悠は行ってしまった。

止められなかった。

私の気持ちは届かなかった。

遠ざかる背中が私にそう突きつける。
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