笑顔の裏側に
厨房の奥に扉があるのが見える。

そこを出ると、新たな通路があった。

そしてその通路の壁際には、ドアが複数あった。

そのどこかにきっと悠がいるのだろう。

早く行きたいと急く私を宥めるようにマスターはドアの前の曲がり角で立ち止まった。

「優美ちゃん。」

名前を呼ばれて返事をした。

「神谷を責めないであげてほしいんだ。」

「え?」

予想外の言葉に虚を衝かれた。

「神谷、すごく頑張ってくれてるんだ。今日だってふらふらになりながらも、仕事しててね。でもお客さんの前では一切そんな素振り見せなかった。」

それを聞いて一気に後悔が押し寄せる。

私はなんてことを言ってしまったのだろう。

悠の心配する気持ちに託けて、ただ私の思いや考えを押し付けただけだ。

「大切なものがあると、人は強くなれる。神谷にとっては優美ちゃんだから。それだけは分かってあげてね。」

それじゃあまるで、私のために悠が無理して働いてるとでも言うようだ。

「それってどういう‥」

「さあ、神谷が待ってる。」

そしてドアが開けられた。
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