笑顔の裏側に
するとそこにはぐったりとした様子で椅子に座る悠の姿がある。

「悠!」

「優‥美。」

額には冷却シートが貼ってあり、首には汗が流れている。

急いで自分のコートを脱いで、悠の膝にかける。

備え付けのシンクを借りて、ハンカチを濡らし、汗を丁寧に拭いていく。

「悪いな‥。こんなことなら‥お前の‥言うこと‥聞いとくべきだった。」

「そんなこともういいから。よく頑張ったね。」

買っておいたポカリを鞄から取り出し、蓋を開けて、渡す。

そしてドアの前で私たちのやり取りを見ていたマスターに声をかける。

するとマスターはすぐに部屋を出て、動いてくれた。

「寒くない?」

「ああ。」

真っ赤な顔で荒い呼吸を繰り返す悠に泣きたくなるのをグッと堪えた。

気づかれないように額や首の汗を適度に拭いていく。

「優美。」

何でもないふりして、明るく返事をする。

「ごめんな‥。心配かけて‥。」

「何、言ってるのよ。」

その言葉に耐えられなくなり、慌てて席を立ってシンクに行った。

そして一応濯ぐ必要もないハンカチを濯いだ。

「少しくらい私にだって心配させてよ。じゃなきゃ、何も返せないでしょ?」

私は悠にしてもらってばっかりで、私は悠に何もしてあげられてない。

だからこれから少しずつ悠のために何かしたいんだ。

涙を袖で抑えたとき、ドアがノックされた。
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