笑顔の裏側に
「悠、もうちょっと頑張って、ベットまで。」

そう言っても返事はない。

すっかり玄関にある下駄箱に凭れかかってしまっている。

仕方なく靴とコートを脱ぎ、悠のも同じように脱がそうと、コートに手を伸ばした。

1つずつボタンを外していく。

全てを外してファスナーに手をかけたとき、そのまま悠の胸に倒れこんだ。

一瞬何が起きたのか分からなかった。

だけど背中に回された片腕が抱きしめていることを教えてくれている。

「優美‥。」

「もう少しだから、ね?早くベットで

「ずっと‥こうしたかった‥。」

私の言葉に重ねるようにして、いつもより弱った声でボソボソと話す。

私は口を閉じ、その声に耳を傾ける

「もう少しだけ‥このままでいて‥。」

「分かった。」

そしてされるがまま悠に抱きつく形でいたわけだけど、そろそろ離してほしい。

しかし呼びかけても返事はない。

これはまだという合図なのだろうか。

その直後、耳を澄ませば、静かな寝息が聞こえてきた。

それを感じ取った瞬間、慌てて悠から離れて揺する。

「悠、起きて!こんなところで寝たらダメ!」

「うん‥あと‥ちょっと‥。」

「もうダメ、本当にダメ!ベットまで我慢して!」

無理矢理悠の腕を肩に回し、立ち上がるけど、私の力ではビクともしない。

しかし何度かやっているうちに悠も諦めたのか、立ち上がってくれた。
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