笑顔の裏側に
「優美はちゃんと大学行けよ。」

その言葉には頭を撫でていた手が止まった。

「俺の分まで講義聞いてきて。」

「嫌だ‥。」

絞り出した声によって言葉となったものは、まるで小さな子どもが駄々をこねているようだった。

「優美‥。」

「私だって、悠がそばにいてほしいと思うときはそうしたい。私が悠のそばにいたいの。」

悠を困らせてるのは分かっていた。

だけどどうしても私がそばにいたいのだ。

「確かに弱っている時にそばにいてくれたらどんなに心強いか。だけど優美なら分かるだろ?それよりも申し訳なさが先立ってしまうこと。」

そう言われて何も言い返せない。

悠がそばにいてくれた時も、嬉しかったし、安心できた反面、常に申し訳なさが付きまとっていたから。

「優美が雨の中濡れて帰ってきて熱が出たとき。俺は熱のある優美を置いて塾のバイトに行った。だから気にしなくていいんだ。それでいいんだよ。」

あの日私は塾を休むと言った悠を必死で止めた。

その日のために一生懸命予習をしていた悠を知っていたから。

だから私のために休んで、悠の努力を無駄にするようなことだけは嫌だった。

それと同じなんだ。

相手を想うあまり、自分を犠牲にしてまで尽くしたいと思ってしまうけど。

それは間違っていて。

自分も相手も両方を大切にすることができるのが一番なんだ。

「分かった。その代わり昼休みに一回帰ってくるから。」

「ありがとう。」

満足そうに微笑んで、目を閉じた。
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