笑顔の裏側に
「離せよ!」

パンッ!!

思いっきり振り払われて、悠の手の甲が私の頰に当たった。

一瞬で恐怖の感情が芽生え始める。

心臓が異様な音を立てて、背中に冷や汗が流れる。

頰を押さえた手が震え始めて、あの時の感覚と同じだと思った。

足がもつれてうまく歩けないけど、転がり込むように、自室に入った。

勢いよく閉めたドアの前で、しゃがみ込む。

自分の腕で自分を抱いた。

ちょっとぶつかっただけ。

怖くない。

あの時とは違う。

ただのフラッシュバックだ。

何度も自分に言い聞かせる。

だけどなかなかうまくいかない。

焦れば焦るほど呼吸は浅くなり、苦しくなってきた。

ゆっくり深呼吸をするだけに集中する。

大丈夫、大丈夫。

自分に暗示をかける。

それを何度か繰り返すと、少しずつ落ち着きを取り戻すことができた。

だけどもう一度リビングに戻るのには抵抗があって。

悠の方から声をかけてくれないかななんて期待していた。

こんなんだからきっとダメなんだ。

いつだって悠に頼りきりで、甘えてばかりだから。

私と住むのが嫌になっちゃったのかな。

だけど悠の言葉を聞くのが怖くて。

ただドアの前で声を押し殺して泣くことしかできなかった。
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