笑顔の裏側に
あの頃と変わらない木のベンチに腰をかけた。

私に続いて悠も隣に腰を下ろす。

少しの沈黙の後、深呼吸をして名前を呼んだ。

「悠。」

誰もいない中庭に私の声がやけに響いた気がした。

「酷いこと言ってごめんなさい。私、悠のことをたくさん傷つけた。ごめんなさい。」

頭を下げるけど、何も言ってくれない。

頭を上げて言葉を続けた。

「お母さんから全部聞いたよ。一緒に暮らそうとマンションに訪ねて来たあの日からずっと、ずっと私と暮らしてくれるつもりだったんだね。」

¨支えたいんだ¨

そう言って、できる限りそばにいようとしてくれたあなたに私は甘え過ぎていた。

「言い訳にしかならないし、もう遅いけど、聞いてくれる?」

悠が返事をしないことをいいことにそのまま話し出した。

「お母さんに戻って来ないかと言われて正直迷った。お母さんとのわだかまりもなくなって、私の心も落ち着いて来た今、悠はいつか実家に帰っちゃうんじゃないかって。悠がいなくなったあの部屋に1人で住むなんて耐えられない。そう思ったの。だからあの時私は悠にあんなことを尋ねてしまった。悠の気持ちを、想いを私は踏みにじった。本当にごめんなさい。」

今度は立ち上がって頭を下げた。

頭を下げたまま、私の本当の気持ちを伝える。

「だけどこれだけは分かってほしい。私はあの時も今もこれからも、ずっと悠と暮らしたいと思ってる。」

どうか伝わって。

これからもずっと悠のそばにいたいということ。

私にとって悠はかけがえのない存在であること。
< 506 / 518 >

この作品をシェア

pagetop