笑顔の裏側に
「失礼致します。遅くなって申し訳ありません。授業が伸びてしまって…」

と言って麻生が入ってきた。

少し髪が乱れてるから、走ってきたのだろう。

「いや、大丈夫だよ。とりあえずそこ座って。」

麻生が椅子に座ったのを確認してから俺も話し始める。

「麻生、この前は本当にごめんな。麻生のこと傷つけるようなこと言って…。でもな、麻生には悪いが、あれが俺の本当の気持ちなんだ。あんな傷を見て階段から落ちたなんて信じられない。よかったら俺に話してくれないか?俺はお前の力になりたい。お前が抱えてるもの、俺に教えて欲しい。」

頼む麻生。

俺の思いを伝わってくれ。

麻生はまっすぐ俺の目を見据えて言った。

「こないだのことは気にしてませんので、大丈夫です。それに信じていただけないならそれで結構です。先生は何か勘違いされているようですが、私には何もありませんので、ご心配なく。お心遣い、ありがとうございました。」

何もない?

そんなわけないだろ?

本当は何か抱えているだろ?

それに俺が話しかけられなかった短期間で何があった?

どうしてそんなに光のない目をしている?

前はこれほど表には出てなかったはずなのに。

そんな俺の思いとは裏腹に淡々とそう話して席を立とうとする麻生。
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