笑顔の裏側に
「頭では分かってるんだ。そんなことないって‥」

言葉を濁して躊躇う悠の背中を押す。

「いいよ、全部吐き出して。大丈夫、私は傷つかないよ。」

そうやって言葉を選びながら話すのはきっと私を傷つけないため。

いつだってそうしてきた悠だから、今も気にしているのだろう。

だけどそのせいで、悠が本心を抑え込むのは違う。

たとえ傷つけられたとしても、悠の心の声を聞きたいんだ。

「それから俺は、もしかしたら優美はその恩義からそばにいてくれるんじゃないかって思うようになって。俺のことを好きって言ってくれたのも、本当は幼馴染として好きの延長みたいなものかなとか思ったりして。お前が家族と過ごすたび、お前の笑顔が増えるたび、嬉しいはずなのに、俺から離れていくようで怖かった。」

思い返せば、私がお母さんの話をするたび、悠の表情が少しだけ寂しそうに感じたことがあった。

ときどき、切なげに瞳を伏せることもあった。

気づこうと思えば、気づけた悠のサイン。

私はそれを見逃したんだ。

「優美が本当に俺のことが好きかどうか不安になって。そしたら指輪なんてとてもじゃないけど渡せなかった。だけど捨てられなくて、あんな形で想いを残した。」

オルゴールが包まれたハンカチに視線を向けた。

これはきっと悠の最大限の愛情表現で。

精一杯のSOSだった。

「結局、俺は優美から逃げたんだよ。」

そう言って、痛々しく目を伏せるから。

堪え切れなくなった涙がワンピースの裾に零れ落ちた。

重ねた手に無意識に力が入っていた。
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