笑顔の裏側に
しばらくすると、悠は落ち着いてきた。

だけど私から離れる様子はない。

きっと顔を合わせづらいんだろう。

悠が私の前でこんなに泣いたのは初めてだった。

「ねえ、悠。」

名前を呼べば、悠の肩がビクッと震えた。

「私たち、もう一度ここから始めようか。」

私たちは1年前の今日、この場所で始まった。

先生とさよならして、ずっとそばで支えながら待っててくれた悠と付き合うことを決めた。

「カフェのマスターが教えてくれた。あの指輪は、今までのこと全部取っ払って、新たな気持ちで恋人としてそばにいられるように、用意してくれたものだって。」

あれからもう一度、カフェを訪ねた。

最初は口が堅かったマスターだけど、私が粘り強さに負けて、全部教えてくれたのだ。

そこで初めて悠の本心に触れた。

私が背中から手を離せば、悠の腕も緩み、ゆっくりと離してくれる。

「あの時渡せなかった指輪。今ならはめてくれる?」

俯きがちな悠にオルゴールを差し出す。

悠が私の右手を手にとった。

薬指にひんやりとした感覚が伝わる。

サイズはぴったりだった。

キラリと光る指輪にじんわりと温かい幸せを感じた。
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