笑顔の裏側に
「ちょっと待ってって。」

慌てて引き止め、麻生の方へ向かう。

「何ですか?」

「こないだの傷は大丈夫か?マスク外してちょっと俺に見せろ。」

あんなに腫れて痣にまでなって。

綺麗に治ったのだろうか。

女の子なのに跡が残ったりしたら、大変だ。

「もう大丈夫ですから。失礼致します。」

そう言って歩き出す麻生の手をつかむ。

「触らないで!離して!」

そう騒ぐが俺はそんな簡単には力を緩めない。

きっと緩めれば、振り払われる。

それは保健室で経験済みだ。

必死に振り解こうとする麻生は叫ぶように言った。

「どうして私にそんなに構うんですか!?」

「落ち着けよ!そんなの心配だからに決まってんだろ!」

そう怒鳴るとあんなに騒いでいた麻生がピタッと止まった。

その隙に俺はマスクをそっと下ろす。

「お前…。どうして…。」

そうつぶやいてそのまま俺は頬から目をそらすことができなかった。

なぜだ。どうしてひどくなっている?

片頬だけだった頬の痣は両方に変わり、前ほどではないが少し腫れている。

唇も切れ、端は腫れている。

どれくらいこうしていただろう。

生徒呼び出しの放送の音で俺たち二人は我に帰った。

麻生は一瞬ハッとしたような表情を見せたが、すぐにいつも通り冷静さを取り戻して、

「離して下さい!もう気が済みましたよね?これ以上私に関わらないで下さい!」

俺がぼんやりしているうちに、腕を振り切り、そう吐き捨てて応接室を出て行ってしまった。

どうして引きとめなかったんだろう。

俺はいきなりの麻生の行動に言葉を失ってしまっていた。

でも関わるなと言われていても、そんなことできない。

そう叫んで出て行った麻生の後ろ姿は今にも崩れそうだった。
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