笑顔の裏側に
「麻生?」

俺は声が聞きたくて名前を呼んだ。

「はい。」

小さな声で麻生は返事をした。

一瞬、目が合う。

「体調、悪いのか?勉強で疲れてるだろ?顔色が少し悪い。少しは休めよ。」

そう声を掛けると、今度は俺をまっすぐ見つめて言った。

「大丈夫です。ありがとうございます。」

そう言って笑顔を向けるあいつに違和感を感じた。

いつもよりもぎこちない。

そしてあの時と同じ光のない真っ暗な瞳だった。

いったい何があったんだ?

完璧なお前をそこまで追い詰めているものは何だ?

「麻生…。」

今にも壊れそうな笑顔を見て思わずつぶやいてしまった。

でもその声はお母さんの一声によってかき消された。

「すみません。患者の容態が急変しましたので、すぐに行かなければならないんです。あとは優美と二人でお願いしてもよろしいでしょうか?進路のことは家でも話していますし、本人に任せている部分もありますから。ご都合の方を合わせていただいたのに大変申し訳ありません。」

俺の返事も聞かずに走って行ってしまった。

ちょっと待てよ。

どういうことだよ。

自分の娘より仕事の方が大事なのかよ。
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