笑顔の裏側に
俺は麻生をそっと抱き、そのまま保健室に直行する。

電気はついていないが、鍵は開いていた。

夏休み中のため、保健の先生はいないが、とりあえず棚からタオルを取り出して水で濡らし、保冷剤を包んで、麻生の額にのせる。

俺は急いで職員室に戻り、麻生のお母さんに電話をかけた。

「はい。」

向こうではバタバタ走る音が聞こえる。

「あの月島学園の瀬立と申します。先ほどはありがとうございました。」

「いいえ、こちらこそ途中で抜けてしまい、申し訳ありませんでした。それでどうかなさいましたか?」

かなり忙しいみたいだな。

でも言わないわけにはいかない。

「あの後、優美さんと面談をしました。そして面談終了後、優美さんが高熱で倒れてしまいまして…。」

「そうですか…。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。そのまま家に帰らせてください。自分で薬飲んで、寝てれば治りますから。」

ちょっと待てよ。

自分の娘が熱で倒れたんだぞ?

心配する気持ちはないのか??

「かなり熱が高いので、私が家まで送ります。」

あんなに熱が高くてフラフラなのに一人なんて帰せない。

もとはと言えば気づかなかった俺が悪い。

「すみません。ありがとうございます。」

「いいえ、大丈夫です。失礼致します。」

そう言って電話を切った。
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