笑顔の裏側に
俺は麻生の鞄を奪い、そっと抱き上げる。

「え?ちょっと先生!大丈夫です。自分で歩けます。」

「いいから。きついんだろ?じっとしてな。まっすぐでいいんだろ?」

「はい。」

そしてリビングのソファーに寝かせる。

「コップ借りるな?」

そう言ってキッチンに向かい、コップを探す。

戸棚から透明なグラスを取り出し、さっき買ったスポーツドリンクを注いだ。

「これ少し飲んで、寝てな。」

「ありがとうございます。何も出来ずに申し訳ありません。」

そう言うと、やはり熱があるからかすぐに眠りについた。

俺はその横で麻生の寝顔を見つめていた。

長く綺麗なまつげ。

痛むことを知らないようなサラサラのストレートの髪。

ピンクに染まった頬。

キメの細かい素肌。

薄いけれどぷっくりとしている薄紅色の唇。

すべてが愛おしい。

ふと時計を見るともう8:00。

ご両親はいつ帰ってくるのだろうか?

そう思ってリビングを出て、電話をかける。
< 86 / 518 >

この作品をシェア

pagetop