笑顔の裏側に
「娘さんより患者さんですか?」

言葉を選ぶ前にそう言っていた。

抑えられなかった。

三者面談の時も。

熱が出ている時も。

患者さんが優先だった。

医者の代わりはたくさんいる。

でも麻生のお母さんは一人しかいない。

どうして?

どうしてもっと麻生のこと気にかけてやらないんだ??

「そういうわけではありません。私たち医者は命を預かっています。それだけの責任があります。自分の都合で放り出せるような仕事ではありません。それは優美もちゃんと分かっています。命に危険がある患者さんを風邪の自分の娘より優先させるのは医者として当然のことです。ご迷惑おかけしたことは大変申し訳ないと思っていますが、これは私たち家族のことですので。今日はありがとうございました。失礼致します。」

そう告げられて一方的に電話を切られてしまった。

そんな言葉を聞きたいんじゃなかった。

お母さんの選択が正しいことも、俺が口出しするようなことではないことも本当は分かってる。

でも俺は麻生の母親としての娘を気遣う想いが言葉が欲しかった。

一般的で誰もが納得するような受け答えじゃなくて。
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