【6】シンボルツリー
3.純真
 ちょうど一年前の今頃、美月が高熱を出してしまい、夫婦揃って慌てたものだ。

 いつも元気で陽気な娘が、布団の上で飛び跳ねることもなく、弱々しく横たわっている姿を目の当たりにし、私はどうしようもなく胸が締め付けられる思いだった。

 美月の熱は三十九度まで上がった。私はパソコンの前から腰を上げず、インターネットで調べ続ける妻を叱り、会社を休んで小児科へ走った。

 医者に診せると、乳幼児特有の突発熱だった。母親から引き継いだ免疫が無くなり、外からの細菌の影響を受けやすい時期なのだそうだ。

 医者の話では、体に発疹が出れば、熱も下がるとのことだった。しかし、美月にはまだ発疹が出ておらず、もう一度確認したのだが、ひとつも見当たらなかった。まだ数日、熱が続くのかと思うと、自分が代わってやりたくて仕方がなかった。

 翌日の夜になって、美月の背中に発疹が現れた。熱が下がった時には、身体中に発疹が見受けられた。
 私は会社に行っていたのだが、娘が心配で、家に何回も電話をし、様子を妻に尋ねた。

 娘が元気になり、また、元通りの生活に戻った。

 妻はインターネットから得た乳幼児の突発熱についての知識を、私に度々話した。その都度、私は聞き流し、何も言わずに会社へ出勤した。

 元気になった美月は、私が家にいる時は、必ず私にまとわり付いた。お腹が空いたり、トイレに行きたくなると、妻に訴えた。

 そうして、妻は娘の世話をする。時折、私の世話まで手が回らないと言うが、それが当たり前のように感じ始めた時、既に何かに気が付かなければいけなかったのかも知れない。
 
 

 
 







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