【6】シンボルツリー
 子供は純真で、正直だと言う。一般的な話だ。私はその言葉に疑いを持ったことはない。

 だから、美月は何かを写し出していたのだ。私たち夫婦の、その時のありのままの姿を。

 子供の行動に、問題がある訳ではないのだ。そうさせている環境、そして気付かないような、何かとてつもなく小さな歯車が、その時から既に狂い出していたのだ。


 ◇


 園庭の外から、他の園児たちとはしゃぐ、美月の姿が見えた。楽しそうな丸い笑顔。

 開門の時間より、私は二十五分も早く着いた。門の前で、私一人が覗いている。

「あら、美月ちゃんのお父さんですね?」

 私の後ろから女性に、ふいに声を掛けられた。

「山波さくらの母です」

 乳児を背負った幼稚園の同じ組の母親だった。

「ああ、さくらちゃんの……」

「美月ちゃんと遊んで貰ったって、家に帰るとお話しするんですよ」

「いえそんな、美月の方が遊んで貰っているんですよ」


「お体は大丈夫なのですか?」

「えっ!?」

「美月ちゃんが、お父さんが元気がないって、ウチのさくらに溢していたみたいですよ」

「美月がそんなことを……」



< 11 / 25 >

この作品をシェア

pagetop