【6】シンボルツリー
 定刻になり、門が開いた。

 私は首に下げたままの入園証を見せて、真っ直ぐに美月のいる教室に向かう。
 ところが、美月の方から私を見付けて、靴を急いで履いて、飛び出してきた。

「美月……」

 そう声を掛ける間もなく、美月は持っていた荷物を全て私に押し付け、遊具に向かって走り出した。

 元気一杯に遊んでいる。少し必死に遊んでいるようにも見えるが、美月は滑り台を滑っては、すぐに回りこんで階段を上った。

 それを十数回繰り返すが、いっこうに帰る気配はない。

「美月、そろそろ行こうか」

 他の園児たちも、帰り出している。それをいいことに、滑り台が空いて、ますます美月の動きが活発になり、回転が速くなった。

 その体力に感心したというか、私はなかば呆れたのだが、娘の動きを見ていて飽きることはなかった。

「今日はプールやったんやろ? 何でそんなに元気なんや?」

 滑り台の天辺で、今にも滑り降りようとする美月を捕まえた。

「だって、げんきやもん」

 そう言うと、滑り台を降りてゆく。しかし、明らかに息が荒い。

「疲れる前に帰ろう。他の子も帰ってるよ」

 美月は聞く素振りも見せない。

「そうだ。コロッケ食べるか?」

 思い付きで言ったことばであった。しかし、美月はコロッケに、見事に反応した。

「コロッケ?」

 きょろっと目を動かし、美月は手すりを握り、階段を上ろうとしているところを立ち止まって、私に聞き返した。

「そう、コロッケ」

 念を押すように、私は答えた。

「じゃ、かえるわ」

 美月は、あっさりと承諾してくれた。

 






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