【6】シンボルツリー
コロッケを買いに、朝に立ち寄った店に、再びやって来る。
店の主人と目が合ってしまったが、美月のために、コロッケを二つ買った。
「自分で持ちなさい」
コロッケの紙袋を美月に手渡し、美月を自転車の後部座席に乗せて、不動尊のいる寺院へと向かう。
「温かいうちに、食べよう」
「うん。たべたい」
朝と同じように、自転車を止め、水屋の水で手や口元をすすぐ。違ったのは、美月がいることだけだ。
無邪気に水で戯れる美月を制し、手を繋いで境内に連れて行く。傍らに屯(たむろ)する鳩たちが気になるらしく、横を向いたまま歩いている。
休憩所の中に入り、コロッケの入った紙袋を広げた。
「お父さんはお茶を貰ってくるから、先に食べとき」
「うん」
お茶を汲みながら、美月の様子を伺うと、勢いよくコロッケに食らい付いていた。美月の分と、自分のお茶をテーブルに置き、美月が零したコロッケのカスを拾った。
「おなか、空いてたんか?」
「うん」
「ほら、お茶も飲んで」
「うん」
「あれだけ遊んだんからやな」
「うん」
「ゆっくり食べなさい」
そう私が諭すと、「おとうさんは、たべないの?」と言って、そこで食べるのを止めてしまった。
「二つとも、美月の分だよ」
「ちがうよ。一つはおとうさんの分だよ」
美月は「たべて」と私にコロッケを掴んで差し出した。ぽろぽろとパン粉が落ちたが、気にならなかった。
「じゃあ、一口貰うよ」
私は一口、コロッケを噛んだ。
「おいしいでしょ?」
美月に確認されたので、にっこりと笑顔で返した。
3.純真 (完)
店の主人と目が合ってしまったが、美月のために、コロッケを二つ買った。
「自分で持ちなさい」
コロッケの紙袋を美月に手渡し、美月を自転車の後部座席に乗せて、不動尊のいる寺院へと向かう。
「温かいうちに、食べよう」
「うん。たべたい」
朝と同じように、自転車を止め、水屋の水で手や口元をすすぐ。違ったのは、美月がいることだけだ。
無邪気に水で戯れる美月を制し、手を繋いで境内に連れて行く。傍らに屯(たむろ)する鳩たちが気になるらしく、横を向いたまま歩いている。
休憩所の中に入り、コロッケの入った紙袋を広げた。
「お父さんはお茶を貰ってくるから、先に食べとき」
「うん」
お茶を汲みながら、美月の様子を伺うと、勢いよくコロッケに食らい付いていた。美月の分と、自分のお茶をテーブルに置き、美月が零したコロッケのカスを拾った。
「おなか、空いてたんか?」
「うん」
「ほら、お茶も飲んで」
「うん」
「あれだけ遊んだんからやな」
「うん」
「ゆっくり食べなさい」
そう私が諭すと、「おとうさんは、たべないの?」と言って、そこで食べるのを止めてしまった。
「二つとも、美月の分だよ」
「ちがうよ。一つはおとうさんの分だよ」
美月は「たべて」と私にコロッケを掴んで差し出した。ぽろぽろとパン粉が落ちたが、気にならなかった。
「じゃあ、一口貰うよ」
私は一口、コロッケを噛んだ。
「おいしいでしょ?」
美月に確認されたので、にっこりと笑顔で返した。
3.純真 (完)