【6】シンボルツリー
 下り坂に入ると、緩やかな風が、私と美月を包む。

 振り向くと、口を大きく開けて、別段爽やかでもない風を吸い込む美月。私は前を向いて自転車を漕がなければならないというのに、美月のことが気になって仕方が無かった。

 二手に分かれる道に差し掛かり、ブレーキを握ってスピードを落とすと「こっちよ」と美月は右方向を、その小さな手と指で指し示した。

「そうか」と私は頷き、右へハンドルを切る。

 満足げな美月の笑顔をよそに、前を向いていた私は、ニヤケっ放しだった。

「もうすぐ着くよ。美月、楽しいか?」

「たのしい」

「そうか、楽しいか」


 幼稚園に近付くにつれ、他の母親の漕ぐ自転車が合流する。

 軽く会釈をして、汗まみれの目元を、首に巻いていたタオルで拭った。

「よいしょ、よいしょ」

 他のお母さんに聞こえるかも知れないが、掛け声でも出さなければたどり着けない雰囲気だったのだ。気力を絞って幼稚園へ向かう。もう少し、もう少しなのである。


 アスファルトが終わり、石ころの多い、舗装のされていない地面に変わる。

「ほら、着いたよ。自転車を置いてくるから、ちょっとここで待っていてね」

 自転車を止め、美月を傍に下ろした。


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