【6】シンボルツリー
「おとうさん、いたいの?」

「あれ、見られちゃったのか」

「うん……」

 私はオリーブの木の方を見た。そして、娘の丸い顔の方を向いた。

「……ごめんよ。お父さん、心配掛けたくなかったけれど、ちゃんと話すよ」

「うん」

「お父さんは今、喉が悪いんだ。子供の頃から腫れやすくてね、膿が溜って、熱が出たりする。喉の痛みでご飯が食べられなくなるんだよ。大人になってからはそんな事もなかったんだけれど、どうやら、ぶり返したみたいなんだ」

「じゃ、いまは、ゴハンがたべられないの?」

「ここ一週間ほど、ちゃんと食べてないよ」

「おとうさん、たべないとしんじゃうよ」

「大丈夫。熱は薬で抑えているし、頑張ってゼリーを飲んでいるから」

「ゼリー? それで、げんきになるの?」

「食べられるようになるまでの辛抱さ」

「いつたべられるようになるの?」

「美月が笑ってくれたら、神さまがすぐに治してくれるよ」

「カミさま? ふどうそん、じゃないの?」

「フドウソンかい? ハハハ。お不動様か。美月には敵わないなぁ」

「わたしね、さっき……、さっき、おいのりしたのよ。おとうさんがよくなりますようにって」


「いつ? 鳩と遊んでいたのに?」


「こうやって、手をあわせて、おうちにある大っきな木にむかって、おいのりしたのよ」

「木?」

「それ」

「これ? このオリーブ?」

「しんぼるつりー、なんでしょ。かぞくのみらいもつまってる」

「……そうか。うん。美月のいう通りだよ。そうだね」

 美月はにっこりと笑い、オリーブの木に向かって、神妙に手を合わせてみせた。私も同じ様に、手を合わせた。

「おとうさんが、はやくよくなりますように」

「ありがとう」

 私は娘の頭を撫でた。表情の曇りが一気に晴れ、美月はにっこりと笑った。



6.シンボルツリー (完)








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