【6】シンボルツリー
「君は君なりに、このオリーブの木から、語りかけてくれてたんだね?」

 オリーブの木は、まだ、さわさわと風に揺れていた。

「シンボルツリーだもんね。君が以前から言っていた、オリーブの木だよね」

 ふと、オリーブの木から更に上の方へゆっくりと目を移すと、その背後には、満天の星空が広がっていた。

 目を丸くして、口がぽかんと開くのが分かる。まるでそれは、幼い頃にクレヨンで書いた塗り絵の星空のようだった。光輝く星の形が、目の前の夜空に張り付いているではないか。

「おとうさん、やったよ」

 不意に下から、元気のよい声がし、私は瞬きをして、我に返った。

「さいごまでおちなかったよ。これで、ねがいごとが、かなうよね?」

「もちろん叶うよ。肩車をしてあげるから、空に向かってお願いしなさい」

 私は、きらきらと目を輝かせている小さな娘を拾い上げ、オリーブの木の横で、肩車をした。


「きれい……」

 美月も星空に気付いたようだった。鉢巻きのように、美月はしっかりと両手を私の頭に回していた。


「──なぁ、美月」

「なあに?」

 見上げる顔と、覗き込む顔が、逆さまに出会った。

「もうすぐな……、弟が生まれるんだよ」

「──えっ?」

 美月が口が半開きになる。

「お母さんと一緒に帰って来るって。さっきね、手紙が届いていたんだ」

「ほんとう!」

 美月は口元を思いっきり真横に引っ張って、白い歯を見せた。



7.ちりちりと(完)



小説

「シンボルツリー」

花井敬市 著




 









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