【6】シンボルツリー
2.ふらり
空いた後部座席を眺めながら自転車を押し、何となく、そしてぼんやりと、近くの肉屋まで足を伸ばす。
その店は、スーパー内でコロッケが美味しいと評判の肉コーナーだったのだが、スーパーが閉店し、改めて幼稚園の近くに店を構えていた。老夫婦が営む、派手さのないそんなお店だったのだが、馴染みの客はすぐにも嗅ぎ付け、なかなかの繁盛ぶりであった。
私もその一人で、揚げたてのコロッケを二つ買って、紙袋に包まれたそれを、自転車の前カゴに入れた。
「さて、どうするかな」
私は呟いた。
自転車に跨ると、後部座席の重りがいなくなったせいか、ことのほかフラ付く。
美月がいないと、こんなもんだよな、などと思いながら、自転車のバランスをとった。
そうだ。家に帰る前に、不動尊にでも会って行こう、と、そう思った。
このまま帰っても、仕方がない。コロッケもあるし……。意味不明な言い訳を、私は自分に対して行っていた。
とにかく、行こう。
近くにある寺院だったが、全国的にも名の通った場所でもあった。それに、クーラーが効いている休憩所もある。そこで、このコロッケを食べようと思った。
この暑さの中、なんだか力が湧いてきた。
私は自転車を漕いだ。寺院には、すぐに着いた。
自転車を置き場に止め、コロッケの袋を手に、境内へと向かう。
途中の杓(ひしゃく)が二十本ほど備え付けられた水屋に立ち寄り、喉をすすぎ手を洗った。杓で掬った水は透き通っていて、ひんやりとして冷たく、心地好かった。
足下には、溢れた水を、鳩がついばんでいた。水溜まりになっているところでは、数羽が頭を下げ、くちばしを使って、水を掬い上げていた。
その店は、スーパー内でコロッケが美味しいと評判の肉コーナーだったのだが、スーパーが閉店し、改めて幼稚園の近くに店を構えていた。老夫婦が営む、派手さのないそんなお店だったのだが、馴染みの客はすぐにも嗅ぎ付け、なかなかの繁盛ぶりであった。
私もその一人で、揚げたてのコロッケを二つ買って、紙袋に包まれたそれを、自転車の前カゴに入れた。
「さて、どうするかな」
私は呟いた。
自転車に跨ると、後部座席の重りがいなくなったせいか、ことのほかフラ付く。
美月がいないと、こんなもんだよな、などと思いながら、自転車のバランスをとった。
そうだ。家に帰る前に、不動尊にでも会って行こう、と、そう思った。
このまま帰っても、仕方がない。コロッケもあるし……。意味不明な言い訳を、私は自分に対して行っていた。
とにかく、行こう。
近くにある寺院だったが、全国的にも名の通った場所でもあった。それに、クーラーが効いている休憩所もある。そこで、このコロッケを食べようと思った。
この暑さの中、なんだか力が湧いてきた。
私は自転車を漕いだ。寺院には、すぐに着いた。
自転車を置き場に止め、コロッケの袋を手に、境内へと向かう。
途中の杓(ひしゃく)が二十本ほど備え付けられた水屋に立ち寄り、喉をすすぎ手を洗った。杓で掬った水は透き通っていて、ひんやりとして冷たく、心地好かった。
足下には、溢れた水を、鳩がついばんでいた。水溜まりになっているところでは、数羽が頭を下げ、くちばしを使って、水を掬い上げていた。