THE LAST NIGHT ー 最後の夜にー
思えば
いつから
彼女に恋をしていたのだろうか?
「……拓海……ねえ、拓海は全然、わかってないわ
再婚ですって?私が?なぜ?」
アキさんは声色を変えて
僕を睨みつけるように話した
僕は、サイダーを一口
喉に通して潤すと
ゆっくりとした口調で彼女に伝えた
「父さんが死んで、もう、8年だ
アキさんは20代という若さで
僕を中学、高校に通わせてくれた……
アキさんには、凄く感謝してるんだ……
父を亡くし天涯孤独になった僕を引き取ってくれたことを………
凄く、感謝してるんだ………
だから、
もう、いいんじゃないかな?
アキさんはそろそろ、父と僕から解放されるべきだよ…………」
「……馬鹿なこと、言わないで!!
何が8年よ!!
私の息子は拓海だけだし、
私の夫は彰さんだけです!!
全然、寂しくなんかないわ!!」
アキさんは勢いよくテーブルを叩いて
立ち上がって、僕を見下ろした
彼女の表情からは
静かな怒りがこみ上げているようだった
「……アキさん………
僕は、20になったら、アキさんの籍から抜けようと思うだ……
ねえ、アキさん……
アキさんは32歳なんだ
まだまだ若いんだ
新しい家庭を持つことだって出来るんだ
恩を仇で返すように思うだろうけど
籍を抜けたからって、
僕のアキさんへの感謝の気持ちは変わらないよ………
僕が一生かけて、
アキさんに感謝の気持ちを伝えるよ」
「……だったら、このままでいいじゃないの!
どうして今頃、籍を抜くなんて………
そんなのひどいじゃない!!」
「……きっと、アキさんに僕という
息子がいれば、再婚の弊害になるだろう
僕は………
アキさんには、幸せになって欲しいんだ…
きっと、死んだ父もそう思うはずだよ……」
僕はガスコンロの火を止めて
立ち上がったアキさんをなだめた
彼女は下を向き、その顔を両手で覆っていた