君までの距離
「湯山さん、俺に5分だけいただけませんか」
高遠さんが真っすぐに湯山さんを見つめても、湯山さんは少しも動じない。
「何かするつもり?自分で歩いていくつもりなら止めてちょうだい。これは仕事で、あなたはこちらの要求に応える義務があるわ」
「やりもしないで決めつけないでください」
「あなたが濡らした服を乾かすのに、どれだけ手間がかかると思うの」
「ボートを買いに行く時間があるなら、俺に5分ください」
白いシャツを脱いで肩からかけ、チノパンを膝のかなり上までまくりあげた。
その肩にマネージャーからタオルが投げられる。
「裕也。無理だと思ったら引き返してこい。お前がたどり着けなくても何ら問題ない」
「サンキュ。蓮見さん」
タオルを首に巻き付け、端をシャツに突っ込む。お世辞にも格好いいとは言えない服装だった。
それでも、アタシにはすごく格好良く見えた。