君までの距離
「わあっ…」
自分の声が、まわりの歓声に掻き消される。スタッフは皆手を止めて、高遠さんに拍手と声援を送っていた。アタシも夢中で拍手する。
高遠さんて、凄い。
ほんの一瞬で、まわりの人を引き付ける何かを持っているんだ。
「わかったわ。あとはその格好をどうにかしてちょうだい」
湯山さんがそう言うと、高遠さんは照れたように頭をかいて、首からタオルを取り丁寧に足を拭いて裾を下ろした。濡れないように背中にかけていたシャツをきちんと羽織ると、何事もなくそこにいた風を装う。
さっきまで湯山さんと言い合っていたのなんか忘れたみたいに、爽やかな青年のたたずまいになった。
高遠さんが位置についたことで、スタッフが慌てて準備に入る。
まだ余裕のある高遠さんは、目だけはいたずらっぽく笑っていて、スタッフが動き回るのを眺めていた。