君までの距離
「ここで頑張っていつか向こうの世界へ飛び出していこうとしてた」
少し高台になったここからは、下にひろがる街の明かりもよく見えた。
高い鉄塔に灯る航空規制の明かりに、街に連なっているお店の明かり、人が住んでいる家々の明かり。
どの明かりも人の存在を感じてあたたかい。
「高遠さんの世界はここからどこへでも繋がっているんですよ。芸能界に染まりきってしまったら、きっと日常のささやかな暮らしにある演技ができなくなってしまいますよ。ここは高遠さんにとって大事な場所なんですね」
「いつも迷うと考えているんだ。正しいとか間違っているとかだけじゃない基準が誰にでもある。俺の基準はきっとここから見ていた世界なんだよ」
今よりちょっとだけ若い高遠さんが見ていた景色は、今とそう変わらないはずだった。
でも、目に見えることのない価値や基準がそこには写っていたはずだ。