君までの距離

何かわかるかと勝次さんの店に行ってみた。

引き戸を開けた俺を見て、勝次さんは目だけで座るように促した。



「未也ちゃんのことなら、答えられるほど知ってることはないね」

ざあざあと流しで下拵えをしたまな板を洗っている。

まな板からは鮮やかな血が流されていく。ぼんやり眺めて、洗い流せるまな板はいいなと感じていた。

自分の心にも血が流れているのに見えることはないし、洗い流せもしない。



「俺、フラれたのかも」

とん、とまな板を立てかけて勝次さんが俺を見た。

「未也ちゃんが裕也の前から居なくなったなら、何か理由があるんだろうよ。何の理由もなしにあの子が居なくなるとは思えないね」

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