君までの距離

「もう逃げたりしないので安心してください」

生まれたての小鹿みたいに黒目がちな目をして佇んでいるのを見ると離れるのが辛くなる。

やっとの思いで手を離して抱きしめていた腕を解く。


「もう逃がしたりしない。俺も本気出していくから」



彼女が頷いたのを見て背中を向ける。蓮見マネがすれ違いざまに小声で耳打ちしていった。

「メイクさんに直してもらう前にグロスを拭っておいて下さいよ。喰ってきた顔してる」

「舐めとけばいいよ」

拭うことで彼女とのキスをなかったことにしたくなかった。彼女から受け取ったものを手放すつもりはなかった。

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