君までの距離
「渡辺、遅刻よ」
「すみません、花山さん。先に見て下さい」
眼鏡を直して鋭い視線を寄越すのは、今のボスだ。慌ててプリントアウトした紙の束を、花山さんの前に滑らせる。
静かな中に紙をめくる音しかしなくて、アタシは自分の心臓がいつもより早く打つのを感じていた。
「渡辺、主人公の速峰の性格、きちんと把握してる?今回は原作なしのオリジナルなんだから、速峰は当て書きして。彼の主演ドラマは何本見たの?」
「え…っと…二時間枠の特別ドラマ二本と、ワンクールのドラマを七回まで…」
ぶわっと嫌な汗が出るのがわかった。このボスの圧力は半端ない。ぎしっと椅子が軋むのにさえ、神経が擦り減りそうになる。
「ふうん…まあ渡辺にしたらリサーチしたほう?で、視聴者は何を求めてるんだと思う?」