君までの距離
「二階に部屋を用意してあるから、上がって待っているといい」
勝次さんは笑顔のまま促してくるので、お礼を言って階段を上がる。
いつかこのお店の格に合うような人間になって食事をしてみたいと思っていた。
芸能人が来るということで、敷居が高いと感じていた。
芸能人が来るお店だとしても、高遠さんは大学生の頃から通っていて、芸能人となった今も足を運んでいるだけだった。
ただ、勝次さんのご飯が食べたいから。理由はシンプルなものだ。
美味しい物を食べたいということに普通の人も、芸能人もないのに、アタシは自分で敷居を高くしていた。
ここに来れば、高遠さんに会える可能性があったから、今まで我慢していた。中途半端な状態で、高遠さんの足手まといにはなりたくなかった。
アタシは、すべて高遠さんに寄り掛かって甘えられるような人間じゃなかったんだ。
それは自分でも知らない一面だった。彼氏ができたら、甘えて、なんでも我が儘を叶えてもらう…それはアタシにとって夢や幻だったようだ。