君までの距離
正面玄関の自動ドアを潜ると、吹き抜けの広いホールがあり、階段に続いている。赤い絨毯を敷き詰めたホールは、別世界のような華やかさがあって進もうとする足が重くなる。
階段から溢れた人の列がホールに達していた。ざわめきや、手にした紙からこの人達はチケットを持っているようで、席が決まっているのにも関わらず、会場が開くのを待っているのだとわかった。
遥香がいるなら、もっと上…。金曜の夜に知った公演のチケットを、日曜の昼に取れるとしたら、かなり早くから並ばないといけないはずだ。
ついアタシの足は早くなる。一段飛ばしをしかねない勢いで踊り場を曲がり、2階のカウンターまでを急ぐ。チケットを持った人の列とは別に、ぐねぐねと蛇行した列が目に入った。なんで蛇行しているのかといえば、フロアの床に思い思いにくつろいで座っているからで、疲れからか、体育座りの膝に頭を乗せ丸くなっている人もいる。
階段を駆け上がって、荒いままの息を落ち着けながら、遥香を捜す。ざっと一度見渡し、もう一度見はじめた所でアタシに手を振る人が目についた。