君までの距離
それは知らない世界
アタシにチケットを渡した遥香は、
「…ゆっくりお茶して帰るわ…」
そう言って立ち去った。いつも綺麗でお洒落な遥香がアタシのために、朝早くから、身なりもかまわず取ってくれたチケット…。
ぎゅうっとチケットを握りしめて、また潤みはじめた目をまばたきでごまかす。
事前にされたキャンセルや、当日急遽なされたキャンセルはそう多いものではない。予定をやり繰りして、やっとの思いで手にしたチケットのはずだ。急な病気や、どうしても抜けられない用事が入ったのかもしれない。
心のなかで、ごめんねとありがとうを繰り返す。見ず知らずのあなたのおかげで、高遠さんの舞台を見ることができます……
チケットを持った人の列は、開いた扉へと飲み込まれていく。