君までの距離
舞台ってこういう物なんだ…動画で見た舞台はテレビの延長でしかなくて、大きな身振りや大袈裟とも言える声音にちょっと引いていた所もあった。
その声音も身振りも、この会場を埋めつくすお客さんのためであり、どこで見ても伝わるような配慮なんだと気づく。
張り上げた声も、割れている。この会場に響き渡るだけの声を出すだけで、喉に負担がかかるのだろう。
これが舞台を創りあげるということなんだろう。
「かかれ!」
ばっと白刃が煌めき、高遠さんの軍勢が囲まれた。高遠さんも刀を抜き応戦に入る。鍔競り合いをしながら、お互いの位置を変えながらも台詞を口にする。
アタシは、ただはらはらと展開を見届けるだけで、これからどうなるのか実際の歴史すら把握してないので、どうなるのかわからない。
多人数の殺陣。迫力ある舞台にアタシの心拍数もあがる。
「この裏切り者がぁっ」
ばっと切り裂かれた高遠さんが、踏み止まり睨み返す。
「ワシは自分の信念のままに生きる!!そのためには手段を選ばんのよ」
「それが裏切りだと言うている」
「哀れよ。信念のない者に言うてもわかるまい」
がくりと膝をつき、最後の力を振り絞るかのように叫んだ。
「ワシは死ぬ。しかし信念は残り受け継がれるんじゃ」
ばっと舞台の照明が落ちる。気づかないうちに、アタシは涙を流していた。高遠さんの存在感、この場所を圧倒する迫力にアタシはただただ飲まれていた。
この広い会場を埋め尽くす人は、この舞台との一体感を感じるために来ているんだ…画面からは伝わらない、この空気を。